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広島地方裁判所 昭和40年(レ)54号 判決 1966年6月06日

控訴人 株式会社ニユー広島ガレージ

被控訴人 株式会社八洲モータース商会

主文

原判決を取消す。

被控訴人より控訴人に対する広島簡易裁判所昭和三五年(イ)第二三号建物明渡請求和解事件の和解調書に基づく別紙目録<省略>記載の建物に対する強制執行は許さない。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

本件につき広島地方裁判所が昭和四〇年一〇月一八日にした強制執行停止決定を認可する。

前項に限り仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は、主文第一、二、三項同旨の判決を求め、請求原因及び被控訴人の主張に対して、原判決事実摘示中請求原因一(右記載を引用する)のほか次の一乃至五のとおり述べた。

一、本件賃貸借契約は、一年間の期限経過後昭和三六年二月一日更新され、その後も更新を重ね昭和三八年二月一日さらに更新された。すなわち、右更新後は、控訴人、被控訴人間に従前の賃貸借契約とは別個の契約が成立したというべきであるから、前記和解調書の債務名義としての効力も右更新により消滅した。

二、かりに和解調書が契約更新後も債務名義としての効力を保有するとしても、控訴人は和解条項に違背したことはない。さらに、前記和解条項第四項の「何らの催告を要せず契約を解除し」とは、契約を解除するには民法第五四一条の催告は不要であるが、解除の意思表示まで不要とする趣旨ではないところ、被控訴人は被訴人に対し本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたことはない。しかるに右和解調書に対し昭和三八年四月九日執行文が付与されたが、右のとおり右和解調書に基づく建物明渡義務は発生していないから、右執行文付与は違法である。

三、控訴人は、被控訴人が昭和三八年三月以降控訴人の提供する本件賃貸借の賃料の受領を拒否したので、同月分から昭和三九年一一月分まで一月五〇、〇〇〇円の割合で弁済供託をしたところ、被控訴人はこれを受領した。これは、被控訴人が本件賃貸借契約の存続を承認したものである。

四、以上いずれの理由によつても、本件和解調書に基づく強制執行は、許されないものであるところ、被控訴人は昭和三八年四月二四日右和解調書の執行力ある正本に基づき別紙目録記載の建物につき建物明渡の強制執行に及んだ。

よつて、右債務名義に基づく建物明渡の強制執行の排除を求めるため本訴に及んだ。

五、被控訴人の主張に対して、訴外株式会社宮本隆モータースは、昭和四〇年本件建物を控訴人に明渡しその使用を取止めたので和解条項違背の事実は消滅した。

被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求め、事実に対する答弁及び主張として次のとおり述べた。

一、控訴人主張の請求原因事実中控訴人主張のような和解が成立した事実、控訴人主張のような賃貸借契約を締結した事実、被控訴人が供託金を受領した事実は認めるが右供託金は損害金として受領したものである、紛争がなかつたにもかかわらず和解の申立をしたとの点は否認する。

二、控訴人は、昭和三六年一二月訴外株式会社宮本モータースに、本件建物を被控訴人に無断で転貸して使用せしめ本件和解条項に違反したので、被控訴人は昭和三八年六月三〇日控訴人に対し本件賃貸借契約を解除する旨意思表示をなし、右意思表示は、その頃控訴人に到達した。右契約解除の効果は、その後右訴外人が本件建物を明渡したからといつて消滅するものではない。

よつて、本件和解調書に対する執行文付与は、適法である。

立証<省略>

理由

一  控訴人主張の如き内容の和解が成立し調書が作成されたことは当事者間に争いない。また、昭和三八年四月九日右和解調書に執行文が付与された事実、被控訴人が同年同月二四日右和解調書の執行力ある正本に基づき別紙目録記載の建物に対し建物明渡の強制執行をした事実は被控訴人において明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。

二、控訴人の本件和解は紛争がないのになされたもので無効であるとの主張に対する当裁判所の判断は、原判決の当該理由と同一であるから、これを引用する。

三、成立に争いがない甲第一号証、原審における控訴人本人尋問の結果によると、本件和解調書に表示された賃貸借契約は、昭和三五年二月一日から一年の期間を定めているところ、昭和三六年、同三七年に各更新されたものであることが認められ右認定に反する証拠はない。

ところで、賃貸借更新とは、更新時に実体法上前賃貸借契約と同一の内容の新たな賃貸借契約が成立するものと解すべきである。したがつて、更新後の賃料債権あるいは解除による明渡請求権は、更新前の賃貸借契約から生ずるものではなく、別個の契約に基づくものであるから、更新前の賃貸借契約についての和解調書によつて強制執行をすることは許されないものというべきである。(将来更新によつて成立するかもしれない新賃貸借契約のために債務名義を付与する如きが許されないことは明らかである。)

そして、被控訴人の主張によると、被控訴人は、控訴人が昭和三六年一二月頃本件建物を無断転貸したので昭和三八年六月三〇日本件賃貸借契約解除の意思表示をしたというのであり、その主張自体更新後の新賃貸借契約を解除したものであることが明らかであり、本件和解調書に表示された賃貸借契約を解除したものと認めるに足らない。

そうすると、本件和解調書に基づいて本件建物明渡の強制執行をなすことは許されないものというべく、右強制執行の排除を求める控訴人の本訴請求には理由があり、これを棄却した原判決は取消を免れない。

よつて、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条、第五四八条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 長谷川茂治 雑賀飛竜 河村直樹)

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